イミテーションゲーム 実話 どこまで

映画『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』は、第二次世界大戦中にドイツが使用していた暗号を解析する天才数学者の物語です。天才数学者としての突飛なキャラクターとその活躍を期待しているならば、それは良い意味で裏切られることとなります。事実をもとにしたアラン・チューリングの姿には悲しい秘密が織り込まれており、鑑賞後はマイノリティである彼の半生に思いを馳せることとなるでしょう。今回はそんな映画『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』の感想や解説、考察について紹介します。なお、ネタバレを多く含んでいるので、視聴前に読む場合はご注意ください。目次1941年、時は第二次世界大戦のまっただ中、ドイツが誇るUボートによってイギリスは苦境に立たされていました。戦況打開の鍵はドイツが使用している暗号機「エニグマ」の無力化ですが、誰もそれを達成することはできません。解読には2000年かかるといわれているエニグマの暗号解読を、世界で最も難解なゲー2015年に公開された映画『イミテーション・ゲーム』は、第二次世界大戦中にドイツが使用していた暗号機の解析に貢献した数学者、アラン・チューリングの半生を描いた作品です。本作の構想は、2009年にさかのぼります。当時、第二次世界大戦後のアラン・チューリングに対する扱いについて、イギリスのブラウン首相が政府を代表して謝罪をしたというニュースが流れました。これを聞いた本作プロデューサーのノーラ・グロスマンとアイドー・オオストロウスキがアランの存在に興味を引かれます。調べていくうちにアランの人生に驚嘆した彼らは、アランを敬う本作の脚本家、グレアム・ムーアと合流し意気投合します。史実に基づきながらも一部脚色されたムーアの脚本は、まだ映画制作されていない脚本のランキングである「ブラックリスト」において、2011年に見事1位を獲得。映画として制作される運びとなりました。 ところで、ブラウン首相が謝罪したきっかけは、2009年にジョン・グラハム=カミングが行った請願活動です。活動の内容は、過去にイギリス政府がアランにとった行いに対して謝罪を求めるものであり、およそ数千の署名が集まりました。その意味では、本作ができた直接の引き金は、この請願運動だといえるでしょう。一体、イギリス政府がアランにどのような行いをしたのか。それは本作におけるアランの秘密と深く結びついています。本作は1951年、1941年、そして1927年という3つの時間軸を行ったり来たりしながら進んでいきます。1951年の時間軸では、空き巣に入られたアランがとある罪によって逮捕され、取調室で戦中における自身の行いを回顧していくことに。また、1941年は第二次世界大戦中のまっただ中で、数学者アランとその仲間によるチームが、ドイツの暗号機「エニグマ」の暗号を解読しようとする姿を描きます。そして、1927年では、寄宿学校で過ごすアランと、彼の唯一無二の親友であったクリストファーの交流が映し出されるのです。 物語は1951年から、アランが警官の前で過去の行いを回顧していくという形で進みます。なお、物語の主軸となるのは、1941年におけるアランの暗号解読についてのストーリーです。しかし、アランの人格形成には少年時代の出来事が深く結びついているため、1927年の物語もときおり差し挟まれます。こうした時間軸の絡み合った物語展開を苦手とする人もいるかもしれませんが、物語の主軸があくまで1941年であること、1927年の物語では子役が登場していることなどから、構成が複雑に感じられることはないでしょう。本作でアランたちが取り組むこととなる、ドイツの暗号機「エニグマ」の解析。この暗号機は、当時は解析不能といわれていました。暗号による文字の組み合わせパターンは150×10の18乗にものぼり、すべてのパターンを人間が試した場合にかかる時間はおよそ2000年以上といわれています。しかも、暗号解読に必要な暗号鍵は毎日午前0時にリセットされるとともに、最初の無線傍受は午前6時であるため、解読に必要な時間は実質18時間しかありません。このような難問に対して、まるでクロスワードパズルを解こうという気分で挑むアラン。しかし、アランは天才的な人物として典型的ともいえる性格をしており、他人と関わるのを嫌い、自分だけで暗号解読に取り組もうとするのです。しかも、暗号解読に必要なものとそいて、彼は大がかりな暗号解読装置を作り始めることに。当然、彼の独りよがりな行動はチーム内の不和を呼び、早々にアランはチームや上司とも対立することとなります。この点、アラン自身は特に悪いことをしているというつもりはありません。最速で暗号解読を行うためには独力で問題に取り組み、無能な人間は排除するべきであるという、きわめて合理的な思考に基づいて行動しているだけなのです。気難しさというよりは天才であるがゆえの振る舞いとして、アランの行動は印象的です。 そんなアランのスタンドプレイに対して、周りの人間も少しずつ彼に協力することに。特に、彼とチームのメンバーを結びつけたジョーンの存在を語らずにおくことはできません。彼女はアランと同じく、数学やパズルにおいて優れた才能を発揮します。それもそのはず、ジョーン・クラークは実在したイギリスの暗号解読者であり、アランとはその後も深い交友関係があった女性です。彼女は単独で問題を解決しようとするアランを優しく諫めながら、チームとの強調が大切であることをアランに教えます。素直にアランが彼女の話を聞き入れるあたり、アランにとって彼女は非常に馬が合う人物であったといえるでしょう。その結果、アランはチームのメンバーと少しずつ打ち解けていくことに。メンバーのリーダー格でもあったヒューも、機械を使用して計算を行おうとするアランの考えに少しずつ理解を示し始め、やがてそれは全員の共感を得ていきます。なお、このコーネル・ヒュー・オドネル・アレグザンダーもまた実在したイギリスの暗号解読者であり、本作ではチームのまとめ役やムードメーカーを担う二枚目として描かれます。彼らの協力もあって、アランはチームで暗号解読装置「クリストファー」を完成させるのです。 しかし、クリストファーの計算速度では、まだエニグマの暗号解読には追いつきません。業を煮やしたイギリス海軍はアランの解雇と、装置の破棄を命じます。けれども、ヒューをはじめとするチームの仲間たちは、アランを辞めさせるならチームのメンバーも全員辞めると主張。その結果、1カ月の猶予を引き出すことに成功しました。孤独な天才が理解されるというイメージは物語の典型ではあるものの、寄宿学校時代には対人関係を苦手としていたアランに再び友情が芽生えたシーンとして、胸を熱くさせます。その後、暗号にある決まったワードが使用されていることを知ったアランたちは、検索条件に特定の検索ワードを指定することによって、見事にエニグマの暗号を解析しました。沸き立つアランたちですが、物語はそこで終わりではありません。むしろ、暗号を解読してからがアランの苦悩の始まりだったのです。エニグマの暗号を無事に解読したアラン。彼には2つの苦悩が立ちはだかります。ひとつは、エニグマを解読したことをイギリス海軍に報告できないという点です。暗号の解読によって、一時的に戦況は良くなるかもしれません。しかし、ドイツ軍の動きをあからさまに先読みしたかのような対応をしていては、いずれドイツは暗号が解読されたことを知り、別の暗号を使うでしょう。そうなると、再び暗号解読のいたちごっこが始まり、戦況が長引くことは必至です。報告を思いとどまるアランに対して、チームの一員であるピーターは、次に襲われる予定の輸送船団には自分の兄が乗っており、これだけでも助けて欲しいと懇願します。結局、アランは彼の頼みを拒否してしまいました。「神じゃないのに生死の決定ではできない」と反論するピーターの言葉は、メンバーの誰もが理解していたことでしょう。それだけに、「他の誰にもできないから」と呟くアランの台詞は重く感じられます。 暗号を解読したことをドイツに知られずに戦況を変えるには、ドイツ軍の動きに露骨に反応するのではなく、もたらされた情報を取捨選択して対応するしかありません。しかも、情報の選択は恣意的ではなく、論理的に行われる必要があります。アランはエニグマを解析したことについて、軍ではなくイギリス諜報部MI6のミンギスへ相談を持ちかけます。相談の内容は、エニグマの解析に成功したことを秘密にすること、そしてドイツ軍の動きに対応するかどうかを統計的に判断するシステムを構築することでした。高度な情報戦を行うために、軍ではなくMI6を頼ったアランたちの行動は正しいといえるでしょう。しかし、それはアランたちがスパイ加担に協力するだけではなく、戦況の裏側で命を選別するということに他なりません。ミンギスとの相談シーンの裏で、うつろな目をした負傷兵が歩き、帰ってこない相手を待つ女性が写し出される様子は、何ともいえないものがあります。エニグマ解析後におけるアランのもうひとつの苦悩は、彼の性的嗜好に起因します。チームの優秀なメンバーであるジョーン、彼女は結婚適齢期に差し掛かっており、エニグマ解析中に家族から家に戻ってくるようにと言われていました。彼女をつなぎ止めるためにアランがとった行動は、ジョーンにプロポーズすること。ジョーンもまたアランのことを想っていたので、これを承諾します。状況は最高の流れで上手く収まったかのようにみえるのですが、そこには大きな嘘がありました。実は、アランは同性愛者であり、プロポーズはジョーンをつなぎ止めるための方便だったのです。チームのメンバーであるケアンクロスだけはそのことに気がついており、ジョーンには黙っておくように勧めます。このケアンクロスもまた、実在の人物です。スパイの存在に関心の高い人は、ケンブリッジ・ファイヴという名前を聞いたことがあるかもしれません。ケンブリッジ・ファイヴとは戦時中にイギリスで活動したソビエト連邦のスパイ網のことです。ジョン・ケアンクロスはその一人として、エニグマを解析したブレッチリー・パークで分析官を勤めていました。とある出来事がきっかけとなり、アランはケアンクロスがソ連のスパイであることに気がつきます。上層部へ報告するというアランに対して、そんなことをすれば君が同性愛者であることを暴露するぞと脅すケアンクロス。1940年代のイギリスでは、同性愛は犯罪でした。その後、イングランド及びウェールズで条件付きによって同性愛が非犯罪化されるのは、1967年まで待たなくてはなりません。 ケアンクロスに逆に弱みを握られることとなったアランですが、保身よりも仲間のために行動しようとしたところにはとても好感が持てます。もともと、政府はソ連から入り込んだスパイの正体を探っていました。過去にアランがこっそり持ち帰った資料が原因となり、ミンギスはアランと一緒に住んでいたジョーンにその疑いがかけられていると仄めかします。そこで、アランはスパイの正体がジョーンではなく、ケアンクロスであることを明かしてしまうのです。けれども、実はミンギスは最初からケアンクロスがスパイであることを知っていました。それどころか、知っていながら彼をブレッチリー・パークに招いたといいます。スパイを見つけたときの最も上手い方法とは、「スパイであると気がついた」ことを悟らせずに、これまで通り、素知らぬ様子でそのスパイと付き合うこと。そうすることによって、相手に与える情報をコントロールすることができるからです。エニグマの暗号解析をはじめ、多くの秘密を抱えているアランこそスパイに相応しかったのにと語るミンギス。もしかすると、多くの秘密のなかには同性愛に関する情報も含まれていたのかもしれません。いずれにしても、ミンギスの行動に危険を感じたアランは、ジョーンとの婚約を破棄すると言い、彼女に遠くへ行くように促します。そして、アランは彼女に対して、自分が同性愛者であることを告白するのです。ジョーンは、アランが同性愛者であることにそれとなく気がついていました。その上で、同性愛は些細な問題でしかなく、それでもアランと一緒にいたいと言うのです。しかし、アランは一度たりとも彼女を愛したことがないと告げ、ふたりの関係は終わりました。 アランは、本当にジョーンを愛していなかったのでしょうか。半分正解で、半分間違っているように思えます。その理由は、アランが冗談を言えない人物だからです。アランがジョーンについた最大の嘘、それは彼女へプロポーズしたことです。アランにとって、ジョーンは自分に匹敵する才能の持ち主であり、また人付き合いが苦手な自分を最初から理解してくれる女性でした。ジョーンに対するアランの気持ちとして、確かに異性への愛情はなかったでしょう。しかし、友愛はあったように感じられます。彼女はアランにとってかけがえのない友人の一人であり、それを失うことを恐れたアランは、とっさにプロポーズという冗談を言ったのではないでしょうか。 また、ジョーンがソ連のスパイとして疑われていることを知ったアランは、何のためらいもなくケアンクロスの正体を暴露しました。同性愛者であることを告発される危険があるにも関わらず、彼はジョーンを守ることを何よりも優先しています。それは、やはり彼女への友愛の証だといえるのではないでしょうか。婚約を破棄したときのジョーンは平然としていたそうです。本作における彼女もまた平然としていながらも、何ともいえない表情を浮かべているのが印象的に映ります。結局、苦悩の末にアランはジョーンとの関係を終え、ケアンクロスも交えて終戦までチーム全員で暗号の解読と戦況の操作に努めました。しかし、同性愛者としての彼の苦悩はこれに留まらず、大きな渦となって戦後も彼を苦しめることとなります。映画『イミテーション・ゲーム』において、人付き合いが苦手な様子が目立つアラン。実際のアラン・チューリングはアスペルガー症候群の兆候が見られたという声もあります。彼を演じた俳優ベネディクト・カンバーバッチの演技は、こうした兆候をそれとなく演出するだけではなく、彼の容姿が生きづらい天才数学者の姿と非常にマッチしていて必見です。対人関係が不器用なアランが過去に心を開けたのは、寄宿学校のクラスメイトであったクリストファーだけでした。互いに数学に関して優秀な才能を持っていたふたりは意気投合し、暗号を用いた手紙のやりとりを行いながら友好を深めていきます。アランが暗号解読に興味や関心を持っていたのは、この頃からであることが示唆されているといえるでしょう。やがて、アランはクリストファーに対して、明確な好意を抱き始めます。しかし、アランが想いを伝えようとする直前になって、クリストファーは結核でこの世を去ってしまいました。まだ若いアランが受けたショックは相当なものだったでしょう。作中では暗号解析装置の名前を「クリストファー」とするなど、アランにとって彼が死後も大きな存在であることがうかがえます。特に、暗号解読を成功させるシーンでアランが「クリストファー、頼む」と祈る様子は印象的深いものがあります。彼がクリストファーを忘れられないどころか、今もなおクリストファーの存在を信じていたいことの表れだといえるでしょう。実際のアラン・チューリングが無神論者であったにも関わらず、死後の生について信じていたフシがあるということも相まって、何ともいえないものがあります。 そんなアランは1952年に、同性愛の罪で警察に逮捕されることとなります。判決によってアランは有罪となり、服役するか、薬物療法による治療を受けるかの2択を迫られることに。研究を続けたい一心で、アランは薬物療法による治療を受けることを選びます。その後、久しぶりにアランを訪ねてきたジョーンが見たのは、薬物療法によって精神に変調をきたした彼の姿でした。既に、研究を続けられるような状態ではないアラン。しかし、研究を続けなければ国からクリストファーを取り上げられるとわかっていたアランは、途中で治療を止めることができません。装置にしかすぎないクリストファーに対して「一人にしないでくれ」と嘆くアランの様子は、見ていて非常に辛いものがあります。史実では、アランは1年間の薬物療法を受けたあと、青酸カリによって自殺しています。その理由ははっきりとはしていません。事実だけを淡々と写し取れば、自殺した彼をどこまでも悲劇的な人物として描くこともできたでしょう。けれども、物語の最後にジェーンはアランとこんな台詞をやりとりしています。「今朝 私は消滅したかもしれない街の電車に乗った」普通と異常、マジョリティとマイノリティの境界を見つめつつも、普通ではないことのすばらしさを賞賛するものとして、ジョーンがアランに向けた台詞がいつまでも印象に残ります。 鑑賞に際し、アラン・チューリングについての予備知識の有無はどちらでも問題ありません。一部脚色があるとはいえ、アランの半生に焦点をあてた本作は、単なる伝記の域を超えた上質なヒューマンドラマに昇華されています。説教臭い言説などは一切ないので、一人の男が抱えた人生の切なさをただ心ゆくまで堪能してみてください。

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